狩られるヘイトワード”差別”のコラテラルダメージ　「めんどくさい連中」になった被差別者たち　見えない差別の解

 

 

 

 

ちょっとした飲食店を経営する朝鮮人がいる。

まぁ、俺から言えばおじさん相当と言ってほどの歳の差がある人で、反社会的なルックスに反して一生懸命メニューを研究して店はそれなりに繁盛していて。仮にAさんとしよう。

 

このAサンはもともと高利貸しの取り立てをやっていた人で、親はやっぱり犯罪者だった。

俺が知らない若いころ、暴力団の特攻隊の人とかと愚連隊めいたものを組織して、覚せい剤を打って大暴れしていたような人。

 

ところが、とにかく他人に同情してすぐに泣く性格で、金を取り立てに行ってあまりにも悲惨な生活を見て泣いて帰ってきて、ひどい場合は金を置いて帰ってきたりしてとにかく役立たずだったらしい。

犯罪者の親だけど物質的に豊かに育った家庭環境のせいか、ひどすぎる貧困の現実にショックを受けて仕事にならない日もあったらしい。

 

喧嘩しても最後まで相手を追い込むことの出来ない甘さのせいで「カタギになれ」と言われて飯屋を始めるのである。

愚連隊仲間のコックから料理を死に物狂いで覚えてね。

 

まぁ、みんなそういう経歴は知らないまでも、岩みたいな顔、餅を投げつけて適当にくっつけたような見るからにやばそうな筋肉、粗暴な言動でAさんにビビってる人は多かった。

それがある時結婚して子供が出来たわけだ。Bちゃんとしよう。

 

飯屋の看板娘になって、いつも店の隅っこのベビーベッドで眠っていた。

半分酔っ払ったサラリーマン、旦那と風呂帰りのおばちゃん、トラックの運転手などのアイドルになって、俺も良く離乳食を食べさせていた。

うどんが好きで、うどんを小さくちぎって食べさせたら小さな手を振り回して喜んでいたことを思い出す。

「軍荼利くん、今混んでるから散歩させてやってよ。一品おまけするからさ」というAサン夫婦を背に、夜食を食べる時間に夜泣きするBをおぶって散歩したりしたもんだ。

 

そんな看板娘ももう大学を卒業して大人になる時代になった。

もうすぐ差別というものがなにか新しいステージに行く兆しなのかもしれない。

 

この間、出かけた先で巨乳のえっらいかわいいオネーチャンが「あー！ひっさしぶり！！」と声をかけてくる。

『誰だこりゃ！？』と思っていると、「わたし、わたし、覚えてないの？？Bよ。」という。

 

十年一昔、その看板娘が今や巨乳美人になって大学を卒業し車を運転してるわけだ。

 

朝鮮人を差別してるか？

正直に言えば心の何処かで馬鹿にしてる。

日本人の殆どは韓国を先進国だと思ってないし、なにか変わった国だと思っている。

 

Aサンが警察に捕まったら不当逮捕だと騒ぐ人はいるんだろうか？

多分殆どの人が「やっぱりあのひとヤクザだったんだね」と言うんだろう。

俺も「あの人まだ悪やってたのか」と苦笑いするだろう。

 

でもBちゃんが結婚差別を受けたと言って泣いてあの店に帰ってきたらどうだろうか？

あの時抱いて面倒を見た客は全員、激怒するだろう。

 

 

 

新しい時代の象徴のBちゃんも、今の状況では在日呼ばわりして馬鹿にされるのかもしれない。

確かに状況は昔よりひどくなったと思う。確かな話だ。

 

昔は在日とかチョーセンというタブーは表向き存在しないことになっていたんだから。

 

しかし差別はアカンぞ、マナー悪いでお前という一方で、俺はやっぱり朝鮮人無謬論には賛成出来ない。

 

Aさんは全然無謬じゃない。

むしろ悪だった時の自分の野生を今でも誇りにしているし、頭にきたら殴ったるぞと思っているんじゃないかと思う。

若いころの覚せい剤のせいで体は年々、しおれているけど。

 

時々パチンコ屋ででかい声で雄叫びを上げたり、チンピラの若いのに「おい、お前3万貸せ」等と言ってめちゃくちゃをして、どうもBちゃんにも『お父さんってホント最低ね』等と言われているらしい。

 

しかし反差別とやらのお題目のためにBちゃんがAさんを居なかったことにしたら俺はBちゃんにビンタくらいはするかもしれない。

いや、やっぱり女は叩きにくいので怒鳴り上げるだけかもしれない。

 

ここに絵空事で勝手な線引を持ち込んではいけない。

尊敬する親分に「Aよ、お前は悪に向いてないよ。○○に料理教わって店でも開店せい」と言われて、その日から覚せい剤を止めて、娘が生まれてからは粗暴さを必死で抑えてまともになろうとした努力は他のどんな人間も否定することは出来ない。

 

 

盲は盲、在日は在日、こうした狩られる言葉というのは彼らのアイデンティティーの重要な部分を占めているってことを忘れてはいけない。

気軽にそういう言葉を抹殺すればするほど彼らはインビジブルになっていく。

 

透明人間になって、生き返る前のアイヌのように居なかったことにされたいのか？

 

つまり、在日、チョーセン、チャンコロ、盲、アイヌ、ツンボ、これらの問題の定義をすることが先決だろう。

これらは犯罪という以前にハラスメントの問題で、ハラスメントとして対処しなければみんなが歴史の彼方に消えていく。

 

彼らはチャンコロやチョーセンであるがゆえに今のアイデンティティーが形成されたし、それが不快さを伴うのは差別としてそれを使う奴がたくさんいることが原因だ。

 

率先して進めなきゃいけないのはなにか？

「ほらまたパチンコ屋ででかい声出して。だからチョーセンはめんどくさい言われるんやAさん」

という言葉を禁止することではなくて、

『俺らがキムチしか作れん代わりにお前ら刺し身しか作れんのやろが』

とAさんが気軽に言い返せる社会にすることじゃないか？

 

皮肉なことに、差別によって存在をクローズアップされた今が彼らが周囲の人々と「隠さずに」交友を始める切っ掛けになる可能性だってある。

 

そして無意味でバカバカしい言葉狩りをやめて、新しいマナーの規範、毀損されてはならない名誉を再定義するべきだと思う。

 

なかなか、簡単な道のりではないと思うけどね。

 

昭和の「あの頃」一生懸命鍋を振って貯金をして、娘を大学まで行かせた元覚せい剤利用者で、半分ヤクザだったAさんは現実に存在する。デマじゃない。

自動車泥棒から絵に描いたみたいな幸運が重なって大金持ちになった在日は還暦も近くなり、少しでも娘がいいところに嫁げないか日々気をもんで東奔西走している。

 

難しい理屈なんか考えんかったはずだ。

全て彼らの「貧乏はもう嫌だ」「子供にはまともな暮らしをさせたい」という叫びだったんだろうし、限られた選択肢を突き破った肉体言語だったんだろう。

被害者以外の誰がその気持ちをけなすことができるだろうか。

 

一方で花も恥じらうかわいい若い女になったBちゃんは、オトーサンが学んだこともない何かを大学で学んで、スマートフォンをいじり、彼氏とLINEでいちゃつく時代になった。

縁があれば、Bちゃんが産んだ子を俺があの頃のようにおぶって散歩するのかもしれない。