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イラン戦争の帰趨 米・イスラエル連合とイランの勝利条件を解剖する

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開戦13日目

開戦13日目の時点で、この戦争の帰趨についてを書いておく。

ここでいう予測とは論理の帰するべきところだ。つまり蓋然性の話と考えて差支えはない。

「誰が何をもって勝ちとするのか」「誰がどの程度得て失っているのか」「仮定した目的地に近づきつつある者は誰か」

以下、各プレイヤーの勝利条件を定義した上で、現況データを照合して確率を出す。

—※この記事のデータ収集と論点整理、確率の推算は一部AIを使用している

アメリカの勝利条件

アメリカの勝利条件は三段階に分解できる。

第一がイランの降伏。核開発プログラムの完全放棄、弾道ミサイル計画の停止、イエメン・レバノン・イラクへの代理勢力への支援停止を交換条件とした停戦合意だ。第二がイラン宗教政権へのホワイトハウスの直接介入。事実上の傀儡政権化か、少なくとも核に関する検証可能な制限の受け入れだ。第三が征服。地上侵攻によるテヘラン制圧と宗教政権の物理的解体だ。

この三段階は難易度が指数関数的に上がる。

現況を見る。開戦最初の6日間で113億ドルを消費した。1日あたり約10億ドルのペースだ。これをPenn Wharton Budget Modelで2ヶ月シナリオに当てはめると400〜950億ドル、地上侵攻含む最大シナリオでは2,100億ドルの経済的影響が出る。

問題は金だけではない。コスト非対称比が106対1でアメリカ側に不利だ。イランのシャヘドドローン1機の製造コストは5万ドル。アメリカのPAATRIOTインターセプター1発は400万ドル、THAADは1,200万ドルだ。イランが2,000機超のドローンと500発超の弾道ミサイルを撃てば、迎撃費用だけで天文学的な数字になる。実際、開戦最初の100時間の迎撃コストはCSIS推計で12億〜37億ドルだった。

そしてモジュタバ・ハメネイー師が3月8日に新たな最高指導者に就任して強硬路線の継続を宣言した。これは体制転換への抵抗が組織的に継続することを意味する。

**アメリカが第一段階(降伏)に到達できる確率:15%。第二段階(直接介入):5%。第三段階(征服):1%未満。**

征服が事実上不可能な理由は地理だ。1,400万人が住む山岳に囲まれたテヘランを制圧することはアフガニスタンとイラクを合わせた規模の泥沼になる。アメリカ国内の世論がそれを許容するかどうかという問いの前に、物理的に不可能に近い。

イスラエルの勝利条件

イスラエルの勝利条件はより具体的でより過激だ。

アメリカとの共同作戦でイランを軍事的に撃破し、国家として再起不能にすること。そしてアル・アクサモスクの破却だ。

後者について補足しておく。アル・アクサモスクはイスラム教第三の聖地であり、ユダヤ教の神殿の丘と同一地点に位置する。宗教右派のイスラエル政治家の一部が「第三神殿建設」を主張しており、その前提としてモスクの除去が政治的目標として語られることがある。これはイスラエル政府の公式方針ではないが、右派連立政権の構成要素として無視できない志向だ。

現政権はユダヤ教による宗教政権に近い側面を持っており、ネタニヤフと側近はハルマゲドン論者ではないかと俺は疑っている。アル・アクサモスクの破却はイスラム教においてハルマゲドンのきっかけとなる大きな要因として扱われており、そこにカタルシスを見出す蓋然性を彼らは持っていると半ば断定している。語られない目標として、これはほぼ間違いないと思う。

現況を見る。CENTCOMは3月10日時点でイラン国内の5,000か所超を爆撃したと発表した。イランの軍艦43隻を開戦7日間で撃破した。防空システムの削減は進んでいると発表されているが、この数字に取り合うべき価値はない。

禁輸措置で長年孤立していたイランはそもそも防空システムをどこからも買えておらず、取り合うべき価値のある防空システムなど最初から持ち合わせていないのは自明の理だ。だから戦闘機も古いどうしようもないものばかりの空軍戦力、防空体制しか持ち合わせていない。「防空を削減した」という発表は、最初から存在しなかったものを削減したという話に過ぎない。

「国家として再起不能」にするためには防空の削減だけでは足りない。革命防衛隊の指揮系統の物理的解体が必要だ。地下深く構築された核施設・指揮系統・弾道ミサイル貯蔵庫を爆撃で完全に破壊できるかどうかには限界がある。

アル・アクサモスクの破却については、もしそれが実行された場合、前稿で書いたウンマの一体化が即座に現実になる。スンナ派・シーア派の対立線が吹き飛び、全イスラム世界が一点を向く。イスラエルにとっても、アメリカにとっても、この決断は自爆行為に等しい。しかしハルマゲドンを望む者にとって自爆は目的の達成と同義だ。

**イスラエルが軍事的撃破(再起不能)に到達できる確率:10%。アル・アクサモスク破却が実行される確率:3%。ただし実行された場合の中東全域の宗教戦争化確率:90%以上。**

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イランの勝利条件

イランの勝利条件は構造が違う。攻勢側ではなく守勢側の論理だ。

第一が体制転覆リスクの排除。これはハメネイ師が殉教した瞬間に、逆説的な形で既遂になった可能性が高い。通常、指導者の死は体制崩壊の引き金になる。しかしシーア派において殉教は結束の源泉だ。モジュタバ・ハメネイー師が8日間で後継者として就任したことで、指導者不在の混乱期は最短で終わった。外部からの攻撃という明確な敵の存在が、内部の反体制運動を抑圧する正当化論理も提供している。

第二が湾岸諸国とアメリカの離反。

現況データが示す数字が興味深い。サウジアラビアは3月9日にイランへ「攻撃継続なら将来の二国間関係に深刻な影響」と警告を発した。これは米軍基地のホスト国として事実上の協力をしながら、同時にイランに警告を出すという二股外交だ。クウェートの防空システムが米F-15E戦闘機3機を誤撃墜した。湾岸各国の米軍基地への攻撃は計4,000発を超えた。

この数字が意味することは、湾岸各国の国民が現在何を見ているかということだ。自国領土が戦場になり、市民が死んでいる。UAE市民6名が死亡し負傷者131名、バーレーンで子供を含む32名以上が負傷した。これはアメリカの戦争に巻き込まれた代償だ。

イランは湾岸諸国の市民を直接攻撃することで、自国への怒りを生むと同時に「米軍がいるから攻撃される」という論理を植え付けることに成功しつつある。ウンマの視点では、アヤトラを暗殺したと公然と発表している米・イスラエルへの怒りと、その米軍を置いている湾岸王政への不満が同時に形成される。

第三がホルムズ海峡封鎖を通じた西側経済圏への打撃。

世界石油供給の20%がホルムズ海峡を通過する。ブレント原油はすでに100ドル超で推移している。QatarEnergyがラスラファンLNGでフォースマジュールを宣言し、アジアLNG価格が3年ぶり高値の25.40ドル/MMBtuに急騰した。IEAが過去最大規模の4億バレルの石油備蓄放出を決定したが価格は高止まりしている。

さらに見落とされがちな連鎖がある。ヘリウムガスや尿素などの輸出に影響が出た場合、高騰は半導体と食料品全般に及ぶ。この秋の収穫に失敗した場合、世界経済は2年近いインフレが約束されることになる。半導体銘柄の高騰で上昇を続けていた世界の市場への影響はもはや書くまでもないだろう。

また、石油施設の火災による影響が北アフリカから中央アジアまでの農業に相当の打撃をもたらすだろう。小麦、オリーブ、アーモンドといった特産品の輸出は今年いくらか確実に目減りする。酸性雨は新芽にとってひどく有害であり、場合によっては新芽・発芽は全滅となってもおかしくない。

ホルムズの完全封鎖はまだ実施されていない。これはイランの手元にある最後のカードだ。切れば世界経済が激震する。切らなければ交渉の材料になる。イランはこのカードを温存しながら消耗戦を続けることで、アメリカの国内世論と湾岸の離反を待つ戦略を取っているのだろう。

**イランの体制転覆リスク排除(既遂):70%。湾岸諸国とアメリカの離反(部分的):45%、完全離反:15%。ホルムズ封鎖による西側経済打撃(実施):30%、未実施で交渉カードとして機能:55%。**

帰趨を決める三つの変数

**第一の変数:アメリカの財政と国内世論。**

1日10億ドルのペースで消費し続ければ、2ヶ月で2,000億ドルに届く。トランプ政権が500億ドルの補正予算を要求しているが、議会の承認には時間がかかる。ウクライナ・東欧・コーカサスへの兵器供与で弾薬在庫は既に逼迫していた。非対称コスト構造のまま長期化すれば、政治的に継続不可能になる時点が来る。

**第二の変数:湾岸諸国の政治的耐久力。**

これが最も読みにくい変数だ。前稿で書いた通り、湾岸の世俗化は薄い膜に過ぎない。自国市民が死に、自国領土が戦場になりながら、アメリカの基地を継続提供し続けることへの国内圧力がいつ臨界に達するか。サウジが送った警告は表面的な外交辞令ではなく、国内からの複雑な圧力の反映だろう。

**第三の変数:イランの体制維持と代理ネットワークの耐久力。**

ヒズボラはイスラエルへの攻撃を開始した。革命防衛隊の指揮系統が爆撃でどこまで削られたかは外部からは見えない。しかし1,348名以上の民間人死者と320万人の国内避難民という数字は、国民の怒りがどこに向かうかという問いを生む。外部への怒りか、内部の体制への怒りか。殉教の物語が前者を強化する限り、体制は維持される。

**総合予測:**

– アメリカが設定した勝利条件(降伏・直接介入・征服)を達成できる確率:**10〜20%**
– イスラエルが設定した勝利条件(再起不能・モスク破却)を達成できる確率:**5〜10%**
– イランが設定した勝利条件(体制維持・湾岸離反・経済打撃)を部分的に達成できる確率:**50〜65%**
– 交渉による停戦(どちらも完全勝利に至らない形)に落ち着く確率:**40〜55%**

戦争の帰趨は往々にして双方が設定した勝利条件を誰も満たさないままで終わる。アメリカはイランを征服できない。イランはアメリカを中東から完全に追い出せない。しかしイランは体制を維持し、ホルムズカードを消耗させずに停戦交渉に持ち込む可能性が最も高いシナリオだ。

この停戦が来た時、最も大きな代償を払うのはおそらく湾岸諸国の王政だ。

アメリカは撤退する。イランは残る。湾岸の王政はその後も同じ地政学的空間でイランと向き合い続けなければならない。その時、殉教の記憶と湾岸市民の怒りを引き連れた新しいイランが何を要求してくるかは、今よりはるかに強い立場からの話し合いになる。

かなりの確率でありそうなバッドシナリオ

不利になったアメリカとイスラエルにたった一つ残されたちゃぶ台返しと言えば核攻撃しかないのではないか。特にアメリカにはその動機が強くある。

常識的に考えたらそもそも話し合いで決着する余地などこのイラン戦争にあるはずがない。

イランを話し合いに呼びつけてその真っ最中に二度不意打ちで攻撃して、二度目は最高指導者と政府高官をまとめて家族ごと爆殺し、女子小学校を吹っ飛ばして何百人も殺害した。話し合いという事は当然、今後そのような真似はしませんという約束が必要になる。しかしその約束を守るかどうかなど今までの行為を振り返って信じろというのに無理があるし、誰かに約束を守らせるという形をとるのだとして、ガザでの大虐殺にさえ手を出せなかった西欧社会のその約束に何の信ぴょう性があるのかとしかなりえないのではないか。

だとすると。その行為の結果、相手の軍事力が壊滅したか、政府が転覆したかという効果に対する検証を抜きにして終わりにふさわしい文字通りの花火を打ち上げて終わりにしようとしたらそれしかない気がしている。

ただし、この方式を採用する場合、イスラエルは見捨てるしかなくなるだろう。終わったとアメリカが勝手に宣言したところでイランがどうするかは全く別な話であり、核まで出てきたのならやはり地域内の脅威だけでも徹底的に排除しようという防衛的論理が働くだろうことは誰の目にも明らかだからだ。

この論理的な帰納は夏あたりまでにはあったかなかったかはっきりすることになるだろう。

アッサラーム・アライクム

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