劇場版アニメが総集編という傾向
深夜アニメが話題になる(※1)と劇場版と称される映画が公開されることが多い。
今年は小品が目立ったが、劇場に足を運んだものを数えたら5本あって、どれも面白かったので満足している。
一番面白かったのは公開前から爆死が予想されていた(※2)作品だったが、これはヲタ特有の歪んだ性癖なので仕方ない。
さて、今年は良かったが去年とか一昨年はヒドかった。
観に行ったアニメのほとんどがTVの総集編で、デカいスクリーンで観られるのは嬉しいけど無料のTV放映のダイジェストを1800円払って観るという矛盾には、なかなか慣れることが出来ない。
- 話題になる:夜中に放映しているものが「話題」といってもたかが知れてる気がする。ドラマやバラエティと違ってフィギュアをはじめとする関連グッズやらコミカライズやらの版権ビジネスを立ち上げやすいので、そこそこの認知度を得た程度と考えるのが妥当だろうと思っている。
- 公開前から爆死が予想されていた:作品名は控えるが、監督がTwitterで他人にかみついてばっかりの人で、作る前から「その爆死っぷりをリアルタイムで見届けたい」という歪んだファンしかいなかった。
版権とかの関係
劇場版の話になると決まって出てくるのが©のはなし。「TVシリーズだと局が版権取るから儲からない」というアレだ。
局が上前をはねるのは事実なんだが、じゃあ映画だったら儲かるかというと決してそうではない。丸山一昭「世界が注目する日本映画の変容」という本にはこういう記述がある。
「エーゲ海に捧ぐ」(1979)を撮った故池田満寿夫の証言
「驚いたのはトップオフという制度だった。全興行収入の中から、配給元の東宝が、宣伝その他の費用として半分を先に取っちゃうわけよ」
この映画の興行収入は20億円。その中から半分の10億がトップオフされ、残りの10億円の中から劇場が半分取る。劇場の取り分は別だというが、配給会社東宝の直営館だから、要するに東宝系に75%が持っていかれてしまうわけである。このほか全国120館で一斉封切りするためのフィルムプリント代120本分もすべてプロダクション持ちだ。
「最終的に、製作者側には2億円しか入ってこない。映画製作費はすべて含めて1億2千万円。残りの8千万円が儲け」
要するに、たくさんの映画館で上映しようとする = 配給会社を通すと驚くほど上前をはねられてしまう。引用部分はずいぶん前の話だが、大まかな事情は今でも変わらないだろう。
それでも劇場版を作る理由は「それでも全国公開したらTVより収益が上がるから」なんだけど、配給会社を通さずに全国公開することは不可能に近い(※3)といっていいだろう。
そんなこんなでいろいろ大変な劇場版だが、どうして総集編が多いのかについては諸説がある。ざっとまとめると
- 人気があるうち(※4)に収益を上げたい
- 新作カットを混ぜただけ(※5)でキモヲタがカネを落としてくれる
- オリジナルでは採算が取れない、というかギャンブル過ぎる
というのが大方だろう。
最初の2つは当たっているが「オリジナルはギャンブル過ぎる」という点には以前から疑問があった。
そもそも人気作品なんだから、ダイジェストよりも完全新作の方が売れるんじゃないかなあ。完全新作で売れた劇場版(※6)もあるよね?総集編が売れなかったのもあるし。
そのへんがよく分からずにいたんだが、こないだ興味深い記述を見つけた。なんのことはない、やっぱり興行の問題だったのだ。
- 不可能に近い:自主制作自主配給といえば、ジョージ・ルーカスぐらいしか成功していない。劇場版エヴァンゲリオンも自主配給だが、これ一作で判断することは難しいだろう。
- 人気があるうち:オタクは薄情なので10万単位でカネを突っ込んだコンテンツでも熱が冷めると見向きもしなくなる。だからこそ三ヶ月ごとの新作に安定してカネを突っ込み続けるいい顧客だという見方も出来るので、あまり責めてやるのは不公平かもしれない。
- 新作カット:本当。TV放映のDVD版が出ると「ここが修正されている」という比較画像が出回るが、あれば製作会社がやってるんじゃないかと思うときがある。
- 完全新作で売れた:ここ数年では「涼宮ハルヒシリーズ」の劇場版新作「涼宮ハルヒの消失」が該当する。公開初日の朝9時には16:00の回まで売り切れていたとか、ヒロインの可愛さにキモヲタどもが鼻血をだらだら流して前から3列目までが溺死したとかはいい思い出。リピーターも多く「100回目はニューヨークで観ました」という人がいて話題になった。
劇場版アニメが総集編になる理由
下記は日本のオタク四天王(※7)こと、岡田斗司夫の言。
で、「まどか☆マギカ(※8)」の場合は総集編ということで前編後編を劇場でかけたじゃん。
そうしたら、これが儲かろうが儲かるまいが実はどっちでも良いんだ。それよりも劇場にちゃんと人が来るというふうに、興行筋っていうのかな、映画館ビジネスやっている人たちに実績が残せたって事がすごい大事なの。そうすると新作の映画作ってもいいよって話になるんだよ。
その実績がないと、僕らファンがいくら「まどか☆マギカ」が面白いって言っていても、テレビシリーズで視聴率をそんなに獲れたわけじゃない(※9)じゃん、正直。
DVDもめちゃくちゃ売れた訳じゃないんだよ。そうなると他の劇場の作品って、正直こんな話したくないけどさ、アニメって格がいわゆる劇場の映画に比べて3つくらい下なんだよ。有名な俳優さんが出ているわけでもないし。
なんだろうな、アニメのプロデューサーで良い生活している人いないじゃん。こんなこと言うのはなんだけど、鈴木敏夫ですらプール付きの家には住んでいない。でも実写の映画だったら業界の上の方に食い込んでいるとか、テレビ局の上の方に食い込んでいるとか、そういうのは一杯あってさ。だから作っている映画がつまんなくても、宣伝は簡単に出来たりする。吉永小百合が出るといったら、それだけで日本中のテレビ局が一応宣伝番組を作ってくれんだよな、無料で。
ジブリがさ、声優をあんまり使わないのにも理由があって、声優を普通の俳優さんというかアイドル系のタレントも含めてやっちゃうと、そしたらワイドショーでそのタレントさん呼んでくれるじゃん。
その時に新作映画の告知ですってやってくれるから、あれで何億円もお金使わなくて済むんだよな。だからジブリ鈴木敏夫のやり方ってすごくクレバー(※10)ではある。
でも「まどか☆マギカ」さ、それをやってないじゃん。声優に詳しくない俺がスタッフリストを見たら、聞いた事もない名前がダーッと出てくるんだよ。
あ、まどかの声ってこの人なのー、ほむらの声ってこの人なのーって、聞いた事もねえなっていう。普通のおじさんが見たら、そう思うような名前ばっかり出てくる。あれやらなきゃ、ほんと言えば、もっと宣伝費は助かるんだよね。で、制作者側としてはそんなことやりたくなかったので、ちゃんと作りたい。
じゃあ、テレビ版の再編集だけでも人が入りますって証拠を見せたかった、見せなきゃいけなかったんだろうな。
そういうわけで、劇場版というのはテレビの再編集になっちゃった。そう思うわけです。
売るためには配給会社その他を納得させないといけない。そのためにはひとまずの実績というわけだ。
そういえば、最初からカドカワとかが製作に参加している作品は、すぐに劇場版オリジナルが製作されてたりするな。社会現象とか言ってても、台所は大変なんだということに納得。
- 日本のオタク四天王:庵野秀明、岡田斗司夫、竹熊健太郎とあと一人は諸説ある。唐沢俊一という人もいれば荒俣宏という人もいるし、平野耕太だという人もいる。庵野さんと岡田さんはガイナックス出身なので、さすが「メガネっ娘を描いているうちにメガネ本体に萌えるようになるアニメスタジオ」と言われるだけのことはある。
- まどか☆マギカ:「魔法少女まどか☆マギカ」。小さなお友達向けの可愛らしい絵柄にも関わらず、先輩の魔法少女が首から上を持っていかれたり準主役の淡い初恋が寝取られ体験で終わりを迎えたりとハードな展開が話題を呼んだ。劇場版3作はもとより、各種フィギュアやスピンアウトのコミック等も多く、二次創作を集めた隔月刊誌「まんがタイムきららマギカ」は通算16号を数える。
- 獲れたわけじゃない:深夜枠だから仕方ない。
- すごくクレバー:鈴木敏夫さんというのは怖ろしい人で、ナウシカの映画化のとき「原作は500万部売れてます」とケタをひとつ上げて企画を通した人でもある。
「お祭り」としての劇場版総集編
台所事情は納得したが、じゃあ新作を観たいファンはひたすらお布施(※11)を払い続けないといけないのだろうか。
ケチ臭いこと言って恐縮なんだが、TV放映だったらノーカットで無料なんだよ。
なんやかやでカネと時間を使うし内容はすでに知ってる。出来が良ければ我慢も出来るがやらかした総集編(※12)に遭遇したときの憔悴感はハンパではない。
そんな悩みを抱えるキモヲタ諸君には「これはお祭り」と考えることを推奨する。
深夜に放映しているだけあって、一人で観ていた(※13)あの作品を、友達とか彼氏彼女と観に行けばいいのだ。
なんやかや言って、同好の士といく映画館は楽しい。ジュースとかホットドッグとかを買ってオタク話に花を咲かせたり、終演後に軽く感想を述べ会ったら物販コーナーに突撃するとか近所のアニメイト(※14)に行くとか。
たまには、映画をダシにして外に出ても悪くない。内容が分かってるんだから誘う相手を間違えるということも少ないだろう。
いつもSNSで萌え萌え言ってるヤツも実物は意外とマトモなことが多いし、恋人同士ならプレイの幅が広がる(※15)かもしれない。あ、本当に独りぼっちの人はゴメン。
アニメ視聴はインドアな趣味で、一人で完結することが多い。2ちゃんとかブログに過激な意見を書いて構ってもらう(※16)のもお手軽だけど、メシ食ったりフィギュアを見たりしながら雑談する方が精神衛生上は良い。
そういうわけで、総集編は作品単体としてはアレだけど遊びのネタにはなるってこと。口開けて待ってるよりも、楽しみ方を考えないとアニオタ続けられない(※17)よ?
このへんの思考が前向きなのか、業界の養分として調教された結果なのかという判断は読者にお任せしたい。
- お布施:オタク界にある古くからの風習で、DVDやら関連グッズにカネを突っ込むこと。「ファンが買い支えないといけない」を合言葉にしてはいるものの、8割方は好きで買っているのであまり同情しなくてもいい。
- やらかした総集編:元請けから製作費用を取ったのにすべてTV版の切り貼りだったとか、「新作パートで未消化だった最終話に決着をつけます!」と言っておきながら「次の劇場版に続く」で終わったとか、一般的に考えてあり得ない総集編も存在する。ちなみにここに挙げたやらかしは、全部エヴァの庵野さんが主犯。
- 一人で観ていた:実況板とかニコ動のおかげで「みんなで観ている」感を味わう機会も増えたが、基本的には一人さみしく観ている人が多い。
- 近所のアニメイト:友達と行くとネタで変なものを買って、翌日になって後悔することも多いが気にしない。
- プレイの幅が広がる:コスプレでやれってんじゃなくて、ちょっとセリフを真似してみるとかね。「イクぞ!ピカチュー!」「ピカーッ!」とかやってみたら面白いかもしれない。
- 構ってもらう:言っちゃなんだけど、過激な意見とか物言いに返信してるとき、返信する人の8割方は「かわいそうなヤツなんだろうな」と道端で猫せんべいを見かけたときの目をしながらキーボードに向かっている。
- 続けられない:別に続けなくてもいいというか、前向きになれなくなったら別の楽しみを見つけた方がいいような気もする。
40代、筋金入りのアニメオタク、独身。
自暴自棄なリビドーを駄作にぶつけ痛罵痛飲する毎日
人の保守(ホモ)、普通の日本人が図鑑に登録されました。