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末次由紀「クーベルチュール」ー 作画トレース疑惑作家の復帰第三作

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「ちはやふる」という少女マンガの名前を聞いたことのある方は多いだろう。作画のトレース疑惑から40冊近い既刊はすべて絶版、以後2年間にわたって活動を停止した末次由紀の復帰第二作である。

十年一昔とはいうが、全国紙やTVニュースにもなったその騒動を覚えている方と、現在の末次由紀を重ねる方は少ないだろう。言うまでもなく、話題が風化したのではなく、復帰第一作の「ハルコイ」を経て長期連載となった「ちはやふる」が圧倒的な質の高さを保っているからである。

 

繰り返しになるが、競技かるたを題材とした同作品は作家本人の話題性よりも内容の濃さと丁寧な心情描写が高く評価され、二期50話にわたってアニメ化され、実写映画化も決定している。

既刊27巻の「ちはやふる」も非常に読ませる作品だが、ここでは復帰第三作にあたる「クーベルチュール」について。各巻ごとに泣きどころが存在する「ちはやふる」よりも気楽に、しかし末次の作家性に感嘆するに十分な作品である。

 

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同書の表紙画像をみると、オシャレっぽい店構えとイケメンが二人。濃厚なBLか、もしくは甘ったるい恋愛物を期待しなければ、まず表紙買いする人はいない。私も「どっちが攻めなんだろう。まさか一巻左下の少年が参加する3Pショタものじゃないよなあ」と思った。

マニアックなガチホモまではいかないにしても、甘ったるい表紙は中高生、もしくは何か間違えたまま齢を重ねたOLに好まれそうな恋愛ものを想起させるに十分だが、内容は万人が好感をもつ小品集に仕上がっている。

恋愛が題材になることは多いが、その着眼点と表現力、何よりも登場人物の描写が素晴らしい。

日本に来たイタリア人は決してスマートな美青年ではなく、どちらかというと容姿はマリオに近い。ネタバレはしないが、日本に来た理由もちょっとアレゲだ。

夫に先立たれた未亡人はスーパーの鮮魚売り場が似合いそうなおばちゃんで、割烹着でオシャレなチョコレート専門店の接客をこなそうとする。

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比較的ストレートに恋愛を題材とした作品も、男は妙に熱血な歯科医で「チョコレートなんて食べたことない」などとのたまう。

この「ギリギリかっこ良くない」感、決して色恋が生存理由とならない人物の立ち位置が非常にリアルだ。何かキメてそうなぐらい色恋に邁進する恋愛コミックに食傷した方は少女マンガの絵柄を見るだけで嫌悪感を持ったりするが、そうした方にも抵抗なく読めてしまう。過剰にシリアスでもなく不必要に明るくもなく、いくばくかの性善説を自然と摂取させるような小品揃い。失礼ながら座右の一冊とはいかないが、何かの折にふと読み返したくなる作品集である。

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 まったく恋愛がからまない親子関係を題材とした作品もあれば、多少の味付けとして恋愛がからむ作品もある。少女マンガの絵柄をみると、どうしても面倒くさい色恋を想起しがちだが、本作は万人が楽しめるオムニバスとして仕上がっている。

既刊27冊を数える「ちはやふる」は重たいという方が末次由紀を知る入門書としても推奨したい佳作。

なお、甘ったるい恋愛話も少しだけ含まれている。これはこれで容赦なく激甘いので、未経験の方も一度経験してみると意外にハマってしまうかもしれない。

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「トレース疑惑」という単語に反応して本稿を読んだゲスな読者もいるとは思うがまずは本作を、出来れば「ちはやふる」の1巻だけでも一読を願いたい。惜しくも埋もれたかもしれない稀有な作家性が、ゲスな心根を少しは慰めてくれるだろう。

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迦陵頻伽
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迦陵頻伽

末次由紀は昔から知っているが、元々悪どい商人ではないので
あの事件は何かの魔が差したんじゃないかと思ってる

今回のネタは、今ちょっと流行している職業である
ショコラティエに目をつけた感がなくもない
まあ各方面からのリクエストもあるし、実力は疑っていないので
ちはやふるで充分名前が売れた現在、
それと比較してどうかは、まもなく世間が判断してくれるだろう